めまいの原因となる病気はさまざま-QLife
もっとも多いのは耳鼻咽喉科領域の良性発作性頭位めまい症
めまいを起こす病気はさまざま
突然、めまいに襲われて、不安と恐怖を覚えない人はいません。
「とんでもない病気にかかったのではないか」
「脳におかしなことが生じたのか」
原因となる病気に心当たりもなく、
「再びめまいに襲われたらどうしようか……」
こんな不安を抱えたまま、過ごしている人が後を絶ちません。
「実は、めまいを起こす病気は、多種多様にわたります。耳の病気で生じることがもっとも多いのですが、脳の病気や糖尿病などの生活習慣病が原因となっていることもあります。あるいは、ストレスによる心因性のめまいや、服用中の薬によるめまいもあります」と、指摘するのは、めまいの診断と治療の第一人者、東京医科大学病院の鈴木衛教授(耳鼻咽喉科)です。
めまいに対する不安を取り除き、症状の緩和などに役立つ最低限の知識や知恵を持つことが求められます。
めまいには4つのタイプ 目が回る「グルグルめまい」
一言でめまいといっても、さまざまなタイプがあります。めまいには「グルグルめまい」や「フワフワめまい」「クラクラめまい」「ヨロヨロめまい」などがあります。
鈴木教授「『グルグルめまい』は遊園地の高速回転の乗り物に乗ったとき、急に周囲の風景がグルグルと回り出してしまうような、そんなめまいです」
「回転性のめまい」とも呼び、突然、激しく生じるのが特徴です。その場に立っていられなくなったり、まっすぐ歩けなくなったりすることもあります。ひどい場合は嘔吐を伴うこともあります。
「グルグルめまい」の原因としては、良性発作性頭位めまい症や前庭神経炎、メニエール病、突発性難聴などの耳の病気が考えられます。加えて、小脳出血や脳幹部出血などの脳の病気で生じることもあります。
鈴木教授「脳の病気が原因の場合、しばしば手足の痺れなどの神経症状を伴います。命にかかわることもあるので、すぐに病院などを受診することが大切です」
左下側の体の痛みの内側
足が地につかない「フワフワめまい」 立ちくらみの「クラクラめまい」
「フワフワめまい」とは、足が地についていないようなフワフワとした感覚のめまいです。体が揺れるような感覚になるので、「浮動性のめまい」ともいわれます。
鈴木教授「『フワフワめまい』は、症状そのものは軽めなのですが、長時間にわたって続いたり、繰り返し起きたりするところに特徴があります」
「フワフワめまい」は耳や脳の病気のほかに、自律神経失調症や更年期障害、生活習慣病などでも生じます。
一方、急に立ちあがったときに、頭がクラクラして立っていられないようになる「立ちくらみ」もめまいの一種です。いわゆる、「クラクラめまい」と呼ばれます。脳に送られる血液の量が、一時的に不足することから生じます。
鈴木教授「『クラクラめまい』は一瞬、目の前が真っ暗になって倒れそうになったりしますが、じっとしていると治まることが多いといえます。自律神経失調症や貧血などで起きやすく、耳や脳に異常がないことから、危険性の少ないめまいといえます」
まっすぐ歩けない「ヨロヨロめまい」 タイプによって原因の病気がおよそわかることも
「ヨロヨロめまい」は足元がグラグラしたり、まっすぐ歩けなくなったりするめまいです。体のバランスをとる平衡感覚が失われたように感じるめまいで、「動揺性のめまい」とも呼ばれます。
鈴木教授「『ヨロヨロめまい』の多くは、小脳や大脳の異常から生じます。聴神経腫瘍や脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、椎骨脳底動脈循環不全などの脳の病気が原因として考えられ、すみやかに脳神経外科や神経内科などを受診する必要があります」
めまいは、以上の4つのタイプに大別され、その原因もさまざまな病気が考えられます。めまいのタイプや症状によって、耳の病気か脳の病気かなど大体の原因が推測できます。
鈴木教授「めまいが生じた患者さんのうち、救急外来や耳鼻咽喉科などで、すみやかに原因がわかる患者さんは6~7割です。残りの3~4割の患者さんは何回か受診し、追加の検査を受けないと、なかなか原因を突き止められないことが少なくありません。1~2回の受診で原因がわからなくても、諦めずに診察と検査を受けてください」
めまいを治療し、きちんと治すには、なによりもしっかりとした正しい診断が不可欠といえるからです。
胃の痛みと下痢
体の平衡機能のネットワーク異常から生じるめまい
めまいが生じるのは、体のバランスをはかる平衡機能が乱れるからです。
鈴木教授「体の平衡機能の調節は、眼や耳、筋肉・関節などから得られた位置の情報が脳に送られ、脳がそれらの情報を整理・統合し、体の各器官へ指令を出すことではかられます。平衡機能の、こうしたネットワークのどこかに異常が生じると、うまくバランスがとれなくなり、めまいが起こるのです」
たとえば、目に問題があったり、目からの情報を受ける脳の側に障害があったりすると、「フワフワめまい」が起こりやすくなります。
耳からの情報を受ける脳に障害がある場合には、「グルグルめまい」が生じやすくなります。
あるいは、脳からの血圧や呼吸を調節する自律神経への指令がうまく伝わらなくなると「クラクラめまい」が起こりやすくなるのです。
めまいの原因でもっとも多いのは内耳の半規管や耳石器の障害
めまいの原因として、もっとも多いのは耳の病気です。耳は音を聞く働きだけでなく、体の平衡感覚を保つ役割も担っているからです。
鈴木教授「耳は外側から外耳、中耳、内耳に分けられますが、体の平衡機能に関係するのは内耳にある『半規管』と『耳石器』です」
半規管は3本の細い管でできています。半規管の根元を「半規管膨大部」と呼びますが、ここには感覚細胞が存在し、感覚細胞から感覚毛が伸びており、その上をクプラというゼラチン質が覆っています。
鈴木教授「頭が回転すると、半規管の中の内リンパ液と共にクプラも動きます。その動きが感覚毛を通じて感覚細胞に伝わり、脳へ伝達されることで頭の回転が感知されます」
一方、耳石器は水平面に位置する卵形嚢と、垂直面に位置する球形嚢の2つの袋からできています。袋の中には感覚細胞が並び、その上をゼラチン質の耳石膜が覆い、さらに耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの結晶が数多くのっています。
鈴木教授「頭が前後・左右、上下方向に動くと、卵形嚢と球形嚢の耳石が動いて重さのバランスが変わります。その変化を感覚細胞がキャッチし、脳へ伝えることで頭や体の前後・左右、上下方向の動きが感知されます」
半規管は頭や体の回転を感知し、耳石器は前後左右、上下方向の動きを感知するのですが、これらの半規管や耳石器になんらかの障害が生じると、めまいが起こるのです。
体重減少と視床下部
聞こえにくいなど、耳の症状があったら耳鼻咽喉科へ
では、めまいが生じたら、どの診療科を受診すればよいのでしょうか。
たとえば、めまいと同時に音が聞こえにくかったり、耳鳴りなどの耳の症状が起きたりしたときは、耳鼻咽喉科やめまい外来を受診するのがよいと思います。
鈴木教授「めまいが耳鳴りなど、耳の症状と同時に起きやすいのは、音を感じとる蝸牛という器官が、平衡機能に関係する半規管・耳石器と一緒に、狭い内耳の中に収まっているからです。加えて、半規管・耳石器から脳へバランスに関する情報を伝える前庭神経と、蝸牛から音に関する情報を伝える蝸牛神経が、すぐ近くを並んで走っており、最終的には同じ経路を通って脳へ通じているからです」
一方、めまいと共に手足の痺れや激しい頭痛、舌のもつれ、意識の低下などが生じたときは、脳の病気が疑われます。ただちに救急車を呼び、神経内科や脳神経外科で精密検査を受ける必要があります。
鈴木教授「もちろん、めまい以外にほかの症状がなくても、一度、耳鼻咽喉科や神経内科、脳神経外科などを受診し、きちんとした診断を受ける必要があります」
問診のみで原因の病気が突き止められるのは約8割
重要なのは、出来るだけめまいが残っているうちに受診することです。日がたってしまうと、検査をしても原因がはっきりと突き止められないことがあるからです。ある程度症状が治まったら、すみやかに受診するようにしてください。
めまいで受診すると、まず問診が行われますが、この問診が非常に重要です。
鈴木教授「まず、自分の症状を正確に医師に伝えてください。(1)めまいがどんなふうに起こったのか、(2)いつ、どんな状況で起こったのか、(3)めまいのほかにどんな症状を伴っていたのか、(4)めまいはどのくらい続いたのか。そうしたことを具体的に答えることが診断にとても役立ちます」
さらに、(5)現在、服用している薬や病気・ケガなどの有無、(6)めまいは繰り返し起きているのかどうかなどについても、医師に伝える必要があります。
問診後の検査は、さまざまな角度から行われます。聴力検査などの耳鼻咽喉科の検査や血液検査・血圧測定、X線検査などの一般検査をはじめ、平衡機能検査や眼の動きを調べる検査など体のバランスを調べる検査、さらにCT・MRI検査や自律神経の検査など特殊検査を行うこともあります。
鈴木教授「1日で終わらずに、何日かに分けて行うこともあります。原因を突き止めるには必要不可欠なので、きちんと受けるようにしてください」
約3割が自然治癒する良性発作性頭位めまい症
「めまいならメニエール病か」と、早合点する人が少なくありませんが、メニエール病はめまいの原因の1割にも満たないといえます。めまいの原因でもっとも多いのは、良性発作性頭位めまい症です。
鈴木教授「良性発作性頭位めまい症は、耳石器の耳石が耳石膜から剥がれ落ちることから生じます。体を動かしたときに耳石も動き、その情報が脳へ伝えられて体の平衡機能が保たれるのですが、なんらかの原因で耳石が剥がれ、半規管の中に落ちると半規管の神経を刺激し、めまいを引き起こすのです」
良性発作性頭位めまい症によるめまいは、頭を動かしたときに「グルグルめまい」や「フワフワめまい」などを起こすのが特徴です。布団から起きあがろうとしたときや、物を拾おうしてしゃがみこんだときなどに生じます。命にかかわることのないめまいで、あまり心配する必要はありません。
鈴木教授「良性発作性頭位めまい症の、患者さんの約3割は自然に治ります。とくに治療を要しないこともありますが、理学療法が有効です。症状が辛い場合は、抗めまい薬などによる薬物療法も行います」
一方、めまいの中には脳梗塞や脳腫瘍など命にかかわるめまいもあります。先述したようにめまいの原因は多種多様にわたりますから、かならず正確の診断をつけてもらい、適切な治療を受けることが求められます。
鈴木 衛(すずき・まもる)教授
東京医科大学病院耳鼻咽喉科
1949年生まれ。74年東京医科大学を卒業後、広島大学病院耳鼻咽喉科へ。97年より現職。めまいや中耳炎、難聴の診断と治療が専門。『めまいがするときに読む本』(小学館刊)、『めまいで悩む人に』(NHK出版)などの著書がある。
※掲載内容は2008年11月の情報です。
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