2012年4月12日木曜日

薬物の乱用・依存・中毒の違い 超理解 ! シリーズ リチェッタ:ノバルティスファーマ株式会社


薬物乱用、薬物依存、薬物中毒がそれぞれ異なる概念だということをご存知でしょうか?国立精神・神経医療研究センターの和田清先生は、「薬物乱用・依存における問題の本質を理解するためには、乱用、依存、中毒の違いを 正しく把握することが重要」と指摘します。
今回は、それぞれの定義、相違、そして関係性について和田先生にわかりやすく解説いただきました。

依存と中毒は違うのか?

薬物問題というと、必ずと言っていいほど、乱用、依存、中毒という言葉が登場します。ところが、この3つの言葉の違いをきちんと理解している人が非常に少ないように思います。特に依存と中毒の区別に関してはその感を強くします。
しかし、乱用、依存、中毒という3つの概念の違いをきちんと理解していないと、何が問題であり、何を解決しようとしているのかがわからなくなります。
図1は乱用、依存、中毒の関係を示しています。

薬物乱用とは?

薬物を社会的許容から逸脱した目的と方法で自己使用することを言います。
覚せい剤、麻薬(コカイン、ヘロイン、LSD、MDMAなど)、大麻などは、製造・栽培、所持、売買のみならず、使用そのものが原則的に法律によって規制(ほとんどは禁止)されています。したがって、それらを1回でも使えば、その行為は乱用です。


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未成年者の飲酒、喫煙は、法により禁じられており、1回の飲酒、喫煙でも乱用です。シンナーなどの有機溶剤、各種ガス類は、それぞれの用途のために販売されており、それらを吸引することは目的の逸脱であり、1回の吸引でも乱用です。医薬品を「遊び」目的で使うことは、目的の逸脱であり乱用です。また、1回に1錠飲むように指示された睡眠薬、鎮痛薬などの医薬品を、早く治りたいと1度に複数錠まとめて飲む行為は、治療のためという目的は妥当ですが、方法的には指示に対する違反であり乱用です。何回から乱用になるという問題ではありません。

ところで、わが国には成人の飲酒に対する規制はありません。しかし、イスラム文化圏では飲酒自体を禁じている国が少なくありません。この事実は、薬物乱用という概念が、社会規範からの逸脱という尺度で評価した用語であり、逆に医学用語としての使用には難があることを意味します。そのため、「国際疾病分類第10版(ICD-10)」(世界保健機関)では文化的・社会的価値基準を含んだ薬物乱用という用語を廃し、精神的・身体的意味での有害な使用パターンに対しては「有害な使用」という用語を使うことにしました。


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薬物依存とは?

薬物乱用の繰り返しの結果生じた脳機能の異常のために、薬効が切れてくると薬物を再度使いたいという欲求(渇望)が湧いてきて、その渇望をコントロールできずに、薬物を再び使ってしまう状態を言います。
薬物依存を理解するには、「精神依存」と「身体依存」の2つに分けて考えると理解しやすいようです。

身体依存とは、長年の薬物使用により生じた人体の馴化の結果であり、その薬物が体に入っている時には、さほど問題を生じませんが、これが切れてくると、いろいろな症状(離脱、退薬徴候。禁断症状とも言います)が出てくる状態です。断酒による手の震えや振戦、せん妄(意識障害)が典型です。身体依存に陥ると、退薬時の苦痛を避けるために薬物を手に入れようと行動します。この薬物入手のための行動を薬物探索行動と言います。

一方、精神依存では、その薬効が切れても、離脱症状は出ません。ただし、その薬物を再び使いたいという渇望が湧いてきて、その渇望をコントロールできずに薬物探索行動に走り、薬物を再使用してしまう状態を言います。


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身体依存であろうが、精神依存であろうが、必ず渇望に基づく薬物探索行動という形で表面化します。しかも、薬物依存の本態は精神依存であり、身体依存は必須ではありません。アルコール、モルヒネ、ヘロインなど多くの依存性薬物には身体依存と精神依存の両方がありますが、覚せい剤、コカイン、LSDには身体依存はないとされているからです。

以上とは別に、多くの依存性薬物では、その使用を繰り返すうちに、その薬物に対する人体の慣れが生じ、同じ効果を得るためには摂取量を増やす必要が出てきます。この慣れのことを耐性といいます。ただし、耐性自体は薬物依存の必須条件ではありません。コカインには耐性はないとされています。

今日、この薬物依存の原因として、脳内の神経系の異常が明らかになっています。つまり、薬物依存と薬物乱用との関係はモグラ叩きの機械とモグラの関係に例えることができます。薬物依存が存在する限り、いつでも薬物乱用が起き得る(あるいは頻発する)のです。


薬物中毒とは?

薬物中毒には、急性中毒と慢性中毒との2種類があります。
急性中毒は依存の存在に関わりなく、薬物を乱用さえすれば誰でも陥る可能性のある状態です。典型は「一気のみ」というアルコールの乱用の結果生じる急性アルコール中毒です。
一方、慢性中毒とは、薬物依存の存在の元で、その薬物の使用を繰り返すことによって生じる人体の慢性的異常状態です(図2)。依存に基づく飲酒、喫煙による肝硬変、肺癌は慢性中毒として理解できます。幻覚妄想状態を主症状とする覚せい剤精神病も慢性中毒です。

覚せい剤精神病では被害妄想、関係妄想、注察妄想、精神運動興奮、幻聴、幻視などが出現します。これらの症状は、抗精神病薬の投与により3ヵ月以内で約80%は消し去ることができます。しかし、幻覚妄想状態が消えたからといって、薬物依存までもが消えたわけではありません。多くの医療関係者は、幻覚妄想状態が消えたため退院させたところ、ほどなく覚せい剤を再乱用されたという経験を持っています。

重要なのは、薬物乱用、薬物依存、薬物中毒の関係が、同一平面上の概念ではないということです(図3)。慢性中毒を治療しても、依存は残っているのです。図3に示すように、薬物乱用者と言っても、3種類の乱用者がいるのです。



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